雇用・人材

今回のWAT REPORTでは、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」「一般職業紹介」、国土交通省の「建設労働需給調査(令和2年6月)」をもとに、建設業界の雇用・人材関連の推移をレポートします。

高卒新入社員の3年以内離職率はおよそ5割

離職率は、ある一定の期間のうちに、就職した人のうち何人が退社したかを表す数字です。日本では、新卒者の離職率の高さが企業の悩みで、新卒者の早期離職防止が求められています。

厚生労働省が令和1年10月に発表した「新規学卒就職者の離職状況」は、ハローワークに提出された雇用保険の加入届けをもとに、新規学卒者と推定される人数を集計しています。

集計によると、2017年(平成29年)4月に就職した高校生の3年以内離職率は、全産業の平均が39.5%であるのに対し、建設業は45.8%と、6.3ポイント高い数字を示しました。高卒で建設業に就職した人の約半数が、入社3年以内に辞めてしまっていることになります。技能労働者は高卒者がなることが多いため、若者が定着しないことは大きな課題と言えるでしょう。

①-3 新規高卒就職者の産業別 就職後3年以内の離職率参考|厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成 29 年3月卒業者の状況)

大卒新入社員の3年以内離職率はおよそ3割

一方、同年に就職した大卒者の3年以内離職率は、全産業の平均が32.8%であるのに対し、建設業は29.5%と3.3ポイント低くなりました。大学新卒を10人採用したら、平均的な会社の場合、そのうちの3人が、入社3年目を迎える前に辞めていることになります。高卒者よりも離職率が低いのは、福利厚生や昇給制度の比較的しっかりした大企業就職者が含まれていることが関係していると考えられます。

①-4 新規大卒就職者の産業別 就職後3年以内の離職率参考|厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成 29 年3月卒業者の状況)

大卒者の離職率が、どのように推移してきたのか、みてみましょう。

大卒者では、6年間で就職者数が微増しました。17年には2万人の大台に乗っており、2019年4月には2.5万人が建設業界で働きはじめています。これまでの平均から考えて、このうちの約3割を占める6,000人ほどが、3年後には同業他社や別業界に移っていることが予想できます。

①-1 建設業における新規大学卒業者の就職・離職状況参考|厚生労働省「新規大学卒業就職者の産業別離職状況

一方、3年目までの離職者の割合は、2014年からの2年間は微減しましたが、16年からは増加に転じ、29.5%となりました。つまり、17年は就職者数が増えた年でもあり、離職率が高い年でもあったと言えます。
次に、退職した新卒学生が、何年めで退職したのかを年度ごとに表すグラフを見ると、全体の傾向として1年目のに離職する新卒が2000~2500人であるのに対し、2年目の離職が1600~2000人、3年目が1400~1700人程度と、初年度の離職率が最も高いことがわかります。

①-2 建設業における新規大学卒業者の離職状況の内訳(1・3年目)参考|厚生労働省「新規大学卒業就職者の産業別離職状況

2021年3~5月の建設業の技術者・職人の求人倍率は

次に、直近で発表された、2021年5月までの建設業界の求人倍率の推移を見てみます。

厚生労働省は、公共職業安定所(ハローワーク)における就職や求人の状況を毎月集計し、求人倍率などの指標を作成して、「一般職業紹介」で発表しています。

建設関連の求人倍率は、全体的に高い水準で推移しています。

②-1 建築・土木・測量技術者における求職者数参考|厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)

ただ、建設技術者と職人、それぞれの有効求人倍率(パート含む常用)は、19年12月から徐々に下がっており、同年5月に底を打ってからは徐々に上がっていました。21年3月以降の3カ月は再び下がりしました。

「建設・土木・測量技術者」の求職・求人状況では、3月以降の有効求人倍率は、5.3倍、4.6倍、4.5倍と、いずれも前年同月を下回りました。有効求人倍率は20年5月以降、緩やかに上がっていましたが、21年3月から下がり始めています。

一方、新規求人倍率は5月には7.7倍となり、前年、前々年の同期を上回りました。新規求人は上がっており、求職者数も増加しています。

②-2 建築・採掘の職業における求職者数参考|厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)

「建築・採掘の職業(現場の職人など、一部は採鉱員)」の有効求人倍率(パート含む常用)も、21年3月から減少に転じ、5月には、前年同期・前々年同期と比較しても低くなりました。需要の先行指標となる新規求人倍率は、前年同月を上回りました。

職人の過不足率は5年ぶりに供給過剰に

国土交通省が発表した「建設労働需給調査」

労働需給調査では、資本金300万円以上の建設業者約3,000社を対象として、技能労働者の需給状況を調べています。過不足率がマイナスであるということは、供給過剰を意味します。

③-1 建設業の職人の過不足率と対前月比参考|国土交通省「建設労働需給調査結果 (令和 3年6 月調査)

2021年5月の職人の過不足率を見ると、6職合計で過不足率は0.0%となり、均衡しました。前月は5年ぶりに供給が0.1%過剰となり、長く続いた職人の供給不足に終止符が打たれました。特に、左官、鉄筋工(土木・建築)、電工、配管工が過剰で、とび工は均衡、全体的に型枠工(土木・建築)は不足となりました。

対前年増減を見ると、8職種中6職種で供給がプラスとなっており、全体的に職人の不足感は少なくなりました。業界全体の人手不足が深刻なのは間違いありませんが、現場でまったく人手が見つからないという状況ではなくなっているのではないかと考えられます。

7月(次月)の見通しについては、「普通」が最も多い73.8%で、やや困難、困難と答えた企業も2割程度ありました。

③-2 職人の今後の確保に対する見通し参考|国土交通省「建設労働需給調査結果 (令和 3年6 月調査)

今のところ職人は供給過多で、不足は特定の職種に偏っていますが、全体観としては、再び求人が難しくなるのではないかと予想している企業が多いようです。

まとめ

5月のハローワークの有効求人倍率は、建設・土木・測量技術者で4.5倍、建築・採掘の職業で4.7倍と、依然、高い水準で推移していました。この3カ月でやや下がってはいるものの、人手不足は続いています。

職人の不足感は緩和されましたが、次月以降については、今と同じか厳しくなるといった見方が強く、建設業全体の人材不足感は終わっていないことがわかります。

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