令和2年の労災発生状況と内訳

今回のWAT REPORTでは、労働基準監督署の報告を取りまとめた「令和2年労働災害発生状況」、厚生労働省の「令和2年労働者死傷病報告」をもとに、建設業における労災発生状況について取りまとめました。

概要

建設業は危険の伴う現場作業が多い業種です。厚生労働省の労働災害防止計画においては「重点業種」に位置付けられており、特に安全対策を求められてきました。
今年に入って厚生労働省がまとめた2020年の労働災害発生状況調査(確定値)によると、建設業の死傷者数は、前年と比べ1万4,977人(206人減少)で、事故減少率は全業種平均を上回りました。

安全衛生に関する2020-21年のニュース

熱中症予防に「暑さ指数(WBGT値)」の活用すすむ

2020年は猛暑の夏となり、8月に熱中症で搬送された人数は、過去最多となり、81人が亡くなりなした(2008年以降、総務省消防局調べ)。建設業でも、作業員の高齢化が進み、熱中症対策や体調管理の重要性が高まっています。

そのような中、国は熱中症の危険度を正確に判断する数値として、気温・湿度・輻射熱の3つを考慮した「暑さ指数(WBGT値)」の活用を推奨しています。WBGT値では、蒸し暑さを1つの単位で総合的に表現する数値で、気温だけをみるよりも、より人体への影響を的確に表すことができるとされています。

健康/安全管理支援にICT活用が進む

最近では、現場の安全管理にICT活用が普及してきました。

作業員一人ひとりの状態を管理者がモニタリングするものが多く、センサーはアンダーウェアで装着できるものや腕時計型、ヘルメットに装着するタイプなど、さまざまな種類が登場しました。多くが体表面の温度や脈拍などの生体情報、転落や転倒などの急速な動きを検知する加速度センサー等を備えており、万一、熱中症で倒れて意識不明になった場合は、GPSの位置情報で探しに行けるものもあります。

ながらく、機器の運用や取得したデータの活用等が課題でしたが、省エネ技術の進化や、連携するアプリケーションの開発・実装が進み、取得した情報をビッグデータとして、安全管理に活用する動きもあります。

新型コロナウイルス感染対策に追われた2020年

建設現場において、新型コロナウイルス感染が拡大したことから、第一回目の緊急事態宣言以降、部分的な工事の中止や工期延長が行われました。

その後、接触感染や飛沫感染を防ぎ、現場入場者の健康管理・入場制限などを徹底して現場は再開となりましたが、その後も感染拡大により、屋内作業の多い工事は中断・見送りとするなどの対応がとられました。

2021年前半にはワクチン接種が始まり、高齢者のほか大企業での職域接種が推進されています。エッセンシャルワーカーの業種に建設業を指定する自治体もあり、安全確保のためのワクチン接種が急がれます。

2020年の建設業における災害発生件数は1万4,977件、うち死亡災害は102件

2020年には慢性的な人手不足に加え、建設需要の増加で多忙な現場も増え、また、現場における接触・飛沫による新型コロナウイルス感染のリスクも強調されるなど、安全衛生上の配慮が一段と求められた年でした。

ここで扱う、災害発生件数の集計「令和2年労働災害発生状況」は、労働基準監督署が作成した死亡・死傷災害の報告書をもとに作成されました。

報告によれば、20年の労働災害による死亡者数(建設業)は258人、前年比–11人(4.1%減)、計画の基準となる17年比で-65人(20.1%減)でした。3年連続で減少しており、2010年から見ると大幅に減少しました。

②-1-1 死亡災害の発生状況
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

発生した災害を業種別にすると、建設工事の死亡災害発生数は前年比で-23件(18.4%減)となり、土木工事と並びました。土木工事は+12人(13.3%増)となりました。
①-1 建設業における死亡災害発生状況(業種別)
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

死亡災害の内訳では、「墜落・転落」が全体の4割を占めています。今回の集計でも、「墜落・転落」による死亡事故が、実に95件と突出して多く起きていました。

ただ、「墜落・転落」の件数は前年比-15人(13.6%減)と高い減少幅を示しており、業界全体でも、高所作業時における墜落防止用保護具(フルハーネス安全帯など)の使用義務づけなど、対策の強化が奏功したとみられます。

①-2 建設業における死亡災害発生状況(事故の種類別)
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

第13次労働災害防止計画では、今後の死亡災害発生状況について、解体工事の占める割合が増加していることに警鐘を鳴らしており、経年劣化などで鉄筋コンクリートや鉄骨の建築物、橋梁等の解体工事が増加すると見込まれることから、解体工事における安全対策を検討する必要があるとしています。

一方、死傷者数は1万4,977人(前年比-206人、1.4%減)とわずかではありますが、2年連続で減少しました。10年前と比較しても1,000人以上減少しており、長期的に対策の効果が表れているとも考えられます。

業種別の死傷者数をみると、建設工事業は土木の2倍の事故が発生しており、墜落・転落の起こりやすさが影響している可能性もあります。内訳は、土木工事業で+3,963人(同155人、4.1%増)、建設工事業で-8,194人(同223人、2.6%減)となっています。
②-1-2 死傷災害の発生状況
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

土木工事業については、今後、自然災害が激甚化するにしたがい、災害復旧工事の増加が予想されており、工事における労働災害防止対策の徹底が重要となってくると考えられます。

①-3 建設業における死傷災害発生状況(業種別)
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

 

死傷災害発生状況では、2020年の「墜落・転落事故」に遭った人が4,756人となり、19年から-415人(8.0%減)となりました。

①-4 建設業における死傷災害発生状況(事故の種類別)
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

発生状況を年齢別に見ると、20代の事故が大幅に増加していた

続いて、死傷災害の発生状況について見ていきます。

下の表は、事故に遭った人を年齢階級別に分けたものです。ボリューム層である40代で多くなってしているものの、20歳から60歳までの年齢階層で、ほぼ均等に事故が起きています。

建設業の就業者は、40歳以上の中堅~高年齢帯に多いにも関わらず、事故の発生件数としては20代から60代までの人数にあまり差がないことから、入職したての若者や若年者が事故に遭いやすい傾向が見てとれます。この層の災害発生件数は2020年に大幅に増加しました。

②-2 死傷災害の発生状況(年齢別)
参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

一方、40歳以上の年齢階層では、人数あたりの災害の発生数が減少しています。唯一、75歳以上では人数あたりの事故の発生数が非常に多くなっていますが、これには高年齢者の現場労働のリスクの高さが示唆されます。

派遣労働者の死傷災害は87人、死亡者は1人

建設現場では原則的に派遣労働者が禁じられていますが、施工管理業務については対象となっていません。

③-1 派遣労働者の労働災害による死亡者数

③-2 派遣労働者の労働災害による休業4日以上の死傷者参考|厚生労働省「令和2年労働災害発生状況の分析等

「令和2年労働災害発生状況」によると、2020年の派遣労働者の労働災害による死亡した人は、全産業で8人、建設業では1人で、前年から5人減少しました。また、休業4日以上の死傷者数では、87人(2.1%・カッコ内は全産業に占める割合)で、前年から4人増加しました。

外国人労働者の労働災害発生件数は797件、身分は技能実習生が多い

厚生労働省は「労働者死傷病報告」として、労働者が事業者が死亡・休業した際に、義務として提出することになっている報告を取りまとめています。

④-1 外国人労働者の在留資格別の死傷者数
参考|厚生労働省「令和2年 外国人労働者の労働災害発生状況

④-2 外国人労働者の事故の型別の死傷者数参考|厚生労働省「令和2年 外国人労働者の労働災害発生状況

これによると、令和2年の外国人労働者の労災による死傷者数は797人で、前年より増加しています。在留資格の内訳では、特定活動が52人、身分に基づく在留資格が164人で、技能実習生が503件と最も多くなっています。

事故の内訳を見ると、日本人も含めた全体と比較して「はさまれ・巻き込まれ」の割合が高いことが特徴です「墜落・転落」が次に多く122人、「飛来・落下」は117人でした。

まとめ

建設現場に多い「墜落・転落」災害は、減少傾向となりましたが、今後、労働者が高齢化することにより、転倒や、動作の反動・無理な動作といった、運動能力の低下が引き起こす事故の増加が懸念されています。

また、人手不足による指導者の不在で、若手の事故が増える可能性も指摘されおり、管理体制の強化が求められています。

「ヒヤリ・ハット」やフルハーネス型安全帯の装着など、現場レベルでの取り組みのほかにも、請負契約における安全衛生経費の適切な積算や、設計段階での安全衛生への配慮、大手に比べて事故発生件数の多い中小建設業者の管理能力の強化など、事故を発生させない業界づくりにも注力していく必要があるのではないでしょうか。

 

※公の目標値についての参考資料

第13次労働災害防止計画(2018年度~22年度までの5カ年)

全体の建設業を重点業種に指定し、建設業では2022年までに、17年比で死傷者を15%以上減少させる(274人以下)ことを目標としています。

また、最も死亡者数の多い「墜落・転落」の対策強化も呼びかけています。

建設業における労働災害防止に関する中期計画と今後の展望(第8次建設業労働災害5カ年計画)

建設業労働災害防止協会(建災防)が定めた同計画によれば

(1)計画期間中の死亡災害の平均発生件数を、15%以上減少(前回第7次計画比)

(2)同墜落・転落による死亡災害の発生件数を15%以上減少(同)

(3)同休業4日以上の死傷災害の発生件数を、2017年比5%以上減少

を目標として定めています。

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