今回のWAT REPORTでは、総合工事業(ゼネコン)大手・準大手・中堅の合計22社の2021年3月期(2020年度)決算について、各社の有価証券報告書、決算短信等 に基づいてまとめました。
概要
首都圏の再開発や東京オリンピック・パラリンピック関連工事などで活況に沸いてきたゼネコンの決算ですが、ここにきて様変わりしました。
2021年3月期は波乱の展開でした。多くのゼネコンは、オリンピックイヤーが終わっても、しばらくは都市部の再開発などで安定した受注ができると見込んでいました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大による「工事停止」の続出、現場ストップの費用負担、民間の投資意欲の減退により、受注競争が激しくなってしまった等の想定外の事態が連続しました。結果的に、受注はできても利益率が低下するなど、新たな課題が浮き彫りになりました。
目次
グラフで見るスーパーゼネコン4社の2021年3月期決算概況
下のグラフでは、各社の決算短信をもとに、3月期決算を採用している大手ゼネコン4社の売上高実績を、過去8年にわたりさかのぼりました。
グラフの形を見るとわかるように、4社とも2020年の五輪イヤーに向かって売上高が急拡大しています。トップの鹿島と大林は2兆円の大台に乗せ、大林は過去最高を記録しました。
一転して今期では、数年前から需要が踊り場になっていたため、その結果として4社とも売上高が減少。大成・清水は1兆5,000億円を割り込みました。
続いて、次の折れ線グラフで、本業のもうけを表す営業利益の推移について説明します。
過去8年間は建設工事の需要が高かったことから、いわゆる「工事を選り好みできる状態」でした。より利益率の高い工事を受注することができたため、4社とも営業利益は大きく増加しました。しかし、今期決算は、端境期の案件が多かったことに加え、新型コロナの影響などで、全ての会社が減収。人手不足で人件費が高騰していることもあり、見通しは不透明です。
さらに、工事の採算性を表す、完成工事総利益率のグラフです。
2014年3月期から15年3月期には低い水準にあった完成工事総利益率は、16年を境に2ケタ台となりました。今期は現場の中断や着工の中止といったマイナス要素はあったものの、4社とも過去2年の水準を守り、12~14%の利益率を確保しました。
ゼネコン大手4社の2021年3月期(2020年度)決算
ゼネコン大手4社の最終決算は、全社が減収減益となりました。
売上高では大林・鹿島は2兆円を割り込み、大成・清水は1兆5,000億円を下回っています。各社とも、純利益は予想より多くなりましたが、3社は2ケタ台の落ち込みとなりました。大型案件の端境期だったことに加え、東南アジアをはじめとする海外での着工延期や工事中断も要因になりました。
また、12月期決算の竹中工務店も減収減益で、新築やオフィス改修工事の減少が響きました。純利益が前期比55.7%減の305億円で着地しました。
ゼネコン大手の業績予想、来期は利益面で2桁減を見込む
一方、来期の予想では、4社全てが増収減益としました。安定した公共投資もあり、建設需要がまるでなくなるわけではありません。しかし、今度、新型コロナの影響で設備投資の後ろ倒しが起これば、受注競争が激しくなり、比較的小さい工事や、採算性の悪い工事の受注も避けられない可能性があります。4社は当期純利益において、18~31%の減少を見込んでいます。
準大手ゼネコン9社の2021年3月期(2020年度)決算
ゼネコン準大手9社の決算は、2社が増収、7社は減収しました。
好調だった前年に比べると、数年前から案件が端境期に入っていたため、手持ち工事が売上になりにくいタイミングだった企業もあり、さらにコロナ禍による国内外の工事の中断や投資見直しなどが影響しました。
2ケタ台の増収・増益だった前田建設工業は、2020年3月に連結子会社化した前田道路の採算がよく、単体でも公共機関からの発注工事などが好調に推移しました。
次期の業績予想では、予想を出した9社すべてが増収を見込ました。コロナ禍に収束のめどが立つことや、公共工事の発注量も増加が見込まれることから、売上高は増とした一方で、利益面は激しい受注競争を想定するなどで、4社が減収としました。
(三井住友建設は会計方法を変更したため今回は数字なし)
ゼネコン中堅9社の2021年3月期(2020年度)決算
ゼネコン中堅9社は、すべての会社が減収しました。当期純利益も6社が減益しました。
増益したのは奥村組・東亜建設工業・東洋建設でした。
次回の通期決算の業績予想では、売上高には、前年、前々年に受注された工事量が反映されます。大手・準大手ゼネコンと受注合戦を繰り広げてきた中堅ゼネコンは、次年の業績予想を厳しく見通しています。売上高は奥村組・東亜建設工業・淺沼組・飛島建設の4社が増収と予測。当期純利益は、中堅ゼネコン9社のうち8社が減少と見通しました。
まとめ
2021年3月期は、好調だった前年の反動減もあり、多くのゼネコンが減収減益となりました。
いまだ新型コロナの感染拡大は収束に遠く、次年も民間投資の抑制傾向が続く見込みで、建築部門では受注に厳しさが増しています。次年は国土強靭化や防災・減災を目的とした官公庁発注工事に下支えされながら、投資意欲の回復を待つことになりそうです。