雇用・人材

建て込みのパネルを運ぶ型枠大工

今回のWAT REPORTでは、厚生労働省の「雇用均等基本調査」「一般職業紹介」、国土交通省の「建設労働需給調査(令和2年6月)」のデータをもとに、建設業界の労働環境や人材採用、需給状況等をレポートします。

建設業では利用率が高め、多様な働き方の正社員制度

昨今では、ライフスタイルの多様化により、フルタイムを希望しない人や、介護や育児で制約があり、フルタイムで働けない人が増えてきました。勤務先が社員の事情を受け入れ、希望する柔軟に対応すれば、離職者を減らすことにもつながります。

「短時間正社員制度」とは、フルタイムの正社員よりも労働時間を短く設定した上で、雇用契約を交わした正社員を雇用する制度です。厚生労働省の「雇用均等基本調査」では、常用労働者10人以上の企業と5人以上の事業所から、サンプルを無作為に抽出し調査を実施しています。

➂短時間正社員制度の利用状況(事業所別)

これによると、2020年度に制度がある建設業の事業所で、短時間正社員制度が利用されたのは42.6%でした。建設業を含め、「学術研究、専門・技術サービス業」「情報通信業」「製造業」など、職域がはっきりと分かれている産業では利用率が高い傾向があります。建設業においては年々高齢化が進んでおり、近い将来、体力に合わせた働き方として、「短時間正社員」を希望する働き手は増加すると思われます。

一方、転勤がない正社員として雇用される「勤務地限定正社員制度」も建設業では利用率が高く、66.8%でした。これには転勤が多い産業であることが影響していると推測されます。

④勤務地限定正社員制度の利用状況(事業所別)

地域正社員や短時間正社員は、個々人が求めるワークライブバランスを実現する上で欠かせない制度です。新型コロナウイルスの感染拡大とともにテレワークが広がり、これまでテレワークの導入が進まなかった企業が、素早くテレワークに移行できた例もあります。コロナ後には、これまでの経験に基づいた制度設計を守るのではなく、「新しい日常」で求められている社会や経済の実現を目指した、スピード感ある制度の変更・活用が課題になるでしょう。

9月の技術者の求人倍率は5.36倍、技能者は4.84倍で高止まり

次に、厚生労働省による「一般職業紹介」から、2021年8月までの、建設業界の求人動向を報告します。この調査では、公共職業安定所(ハローワーク)において、就職や求人の状況を毎月集計し、求人倍率等の指標を作成しています。

施工管理者などを務める「建設・土木・測量技術者」の有効求職者数(前月からの求職者と、新規求職者の合計)は、6月に1万2,709人(前年同月比11.9%増)、7月に1万1,335人(1.7%増)、8月に1万1,200人(0.2%増)と、前年よりも高水準で推移しました。 一方、新規求職者数は6月に2,395人(10.0%減)、7月に2,422人(10.0%減)、8月に2,301人(6.0%増)でした。技術者の仕事において、求職者は増加しましたが、新規求職者は減少しました。

有効求人倍率は4.76倍(0.0ポイント)、5.27倍(0.3ポイント増)、5.36倍(0.4ポイント増)と前年同期と同じ水準で高止まりしています。新規求人倍率は6月に8.97倍(1.4ポイント増)、7月に8.40倍(1.3ポイント増)、8月に8.26倍(0.0ポイント)。求職者が増えたとはいえ、求人数はさらに増えており、相当の売り手市場です。現場の技能者(建築・採掘の仕事)と比べても深刻な人手不足が続いていると言えます。

⑤建設・土木・測量技術者(求職者数・求人倍率)

一方、現場で働く職人などの技能者、「建築・採掘の仕事」の有効求職者数は、6月に2万4,876人(前年同月比8.9%増)7月に2万4,210人(6.6%増)、8月に2万4,746 (9.9%増)、新規求職申し込み件数は、6月に5,561人(5.4%減)、7月に 5,857人(8.1%増)、8月に5,685人(24.2%増)でした。建築・採掘の職業においては、新規求職者が増加し、有効求職者数も増加しました。

⑥建築・採掘の職業(求職者数・求人倍率)

また、新規求人倍率は6月に8.06(0.8ポイント減)、7月に6.85(0.0)、9月に6.45(1.1ポイント減)。有効求人倍率は6月に4.86(0.0)、7月に4.96(0.0)、8月に4.84(0.1ポイント減)でした。求人倍率は前年同月から変動せず、依然として高止まりしています。

技能労働者は全ての職種で不足、特に型枠工が足りない

国土交通省による9月の建設労働需給調査では、資本金300万円以上の建設業者約3,000社を対象として、技能労働者の需給状況を調べています。過不足率がマイナスであるということは、供給過剰を意味します。
技能労働者過不足率は、8職種合計で1.0%となり、前月よりも0.4%悪化、全ての職種で供給不足となりました。特に型枠工は、土木と建築ともに、2.0%を超えて不足しています。対前年増減を見ても、土木1.2ポイント、左官0.9ポイントと不足の幅が広がっているため、型枠工の不足度はかなりシビアだとわかります。また、鉄筋工(建築)と左官も不足率が1.0%を超えました。

⑦建設労働者の需給における職別過不足率
参考|国土交通省 報道発表資料「建設労働需給調査結果(令和3年9月調査)について

技能者の新規募集過不足率でも、型枠工が土木・建築共に7%を超え、8職種全体で、強い不足率を示しました。鉄筋工(建築)も5.2%不足しており、労働者を確保したくてもなかなか確保できないことが見て取れます。8職種でマイナス(過剰)はなく、全ての職種で不足感がある様子です。

⑧建設労働者の需給における職別過不足率
参考|国土交通省 報道発表資料「建設労働需給調査結果(令和3年9月調査)について

まとめ

五輪特需や首都圏の大型開発等、建設需要がひと盛り上がりして落ち着いた建設業界。これから先、受注競争が激しくなる中で、技術者や職人を十分に確保できていないと、工期が遅れるばかりでなく、コストもかさみます。まずは労働環境の改善のために、十分な工期を確保したり、週休2日の義務化などに注力していくことが大切なのではないでしょうか。

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