建設業における過労とその課題

建設業における過労とその課題

今回のWAT REPORTでは、厚生労働省の「過労死等防止対策白書」などの労働安全衛生関連の政府資料をもとに、建設業における労働災害の事案や、過労の実態についてまとめています。

■概要

2018年、政府の「過労死等防止対策大綱」において、建設業は「長時間労働などの問題があり、特別な調査対象とする業種」に定められました。
実際、過労死につながった100万人あたりの事案数を見ると、危険の伴う漁業や、運輸業に次いで、建設業が多いという結果でした。
調査によれば、30代から50代の現場監督は事務作業負担による長時間労働の問題があり、技能労働者では高齢職人の事故が多発していることがわかりました。また、技能労働者には労災事故をきっかけとしたうつ病など、二次的な精神障害が多い特徴があり、事故後のケアの必要性が浮き彫りになりました。

全産業で3番目に労災が起きやすい

次のグラフでは、「月末1週間の就業時間が60時間以上である」と回答した雇用者の割合が示されています。

一見して運輸業・郵便業が突出しており、ドライバーなどが収入のために長時間労働を選んでいることが要因ではないかと考えられます。次に多いのが教育・学習支援で、教員の長時間労働が課題になっている状況です。
建設業では、ほぼ1割の雇用者が「60時間を超えている」と回答しており、ひと月あたりに直すと、労災認定の目安となる「過労死ライン(残業80時間)」を超過する水準で働いていることになります。
これは全産業で3番目の割合です。

●1_月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合

『出典:労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターの調べ(平成30年度過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究)』

これを100万人あたりの事案数で見ると、コントロールできない自然を相手にするためか、漁業がかなりの割合を占めています。また、長時間勤務になりがちな運輸業、郵便業も全体の2割以上を占めました。

●2 100万人あたりの事業数
建設業も漁業と同じように、屋外での作業が多い業種ですが、基本的には危険予知が可能なためか、デスクワークが主である他産業とほぼ同水準の結果となりました。

建設業における『過労』とは

いわゆる働きすぎの状態(過労)が続くと、心筋梗塞や脳出血、クモ膜下出血などの、脳・神経疾患をわずらい、過労死する危険があります。また、ストレス性の神経症やうつ病などの精神疾患による過労自殺も起こります。

以下のグラフでは、これら過労死につながりやすい「脳・神経疾患」と「精神障害」の発生率についてまとめています。

◯3-職種別にみた建設業の事案数割合(ここから厚労省資料)

職種と年齢階層別に見ると、内勤よりも現場で働く現場監督や技術者、技能労働者により多くの労災事案が発生していることがわかります。

◯4職種・年齢階層別にみた脳・心臓疾患事案
さらに現場関係では精神障害がやや多く、デスクワークでは脳・心臓疾患がやや多い傾向があります。

(過労死につながりやすい)脳・心臓疾患が最も多く発生する年齢層は、50代でした。
特に、責任ある仕事を任されるようになると同時に体力が落ちてくる40、50代の現場監督で多発しています。
60代になると、仕事内容の変化もあってか、現場監督らの罹患件数はぐっと下がりますが、引き続き現場で働くことの多い技能労働者においては、60代でも労災が多発しています。
これらを労災認定要因別に見ると、長時間にわたる加重業務が原因となっているケースがほとんどでした。

◯5労災認定された出来事と職種

長時間労働の原因としては、業務量の多さや人員不足など、1人当たりの限られたリソースを仕事量が超過していることが原因になっています。
現場監督らは、事務書類の多さが突出しており、監督業以外の仕事をこなすために、所定外労働に頼らざるを得ない、多忙な状態が推測されます。

また、「前行程の遅れや手戻り」「災害トラブル等の緊急対応」といった労働者側の責任で所定外労働が生じているケースはあまり多くなく、やはり労働者側からはどうにもできない「人員不足」に問題があると考えられ

一方、「ICTや機械化が進んでいないから所定外労働が発生している」という回答は少なく、I-constructionによる生産性向上を推進している政府との課題認識のずれが存在することがうかがえます。

●6_所定時間外労働が生じる理由(労働局資料)_re

◯7職種・年齢階層別にみた精神障害事案

また、(過労自殺につながりやすい)精神障害事案では、最も多く発生しているのが30、40代の現場監督・技術者でした。中間層となる年齢の現場監督らに、精神障害事案が多発していることがわかります。
一方で、現場作業を担う技能労働者では、若手から壮年まで、精神障害事案の発生件数はほぼ同程度でした。年齢により責任範囲や業務内容が変化することの多い現場監督らと比べ、技能労働者では年齢による差がそれほど現れないようです。
また、脳・心臓疾患に比べ、発生件数のピークが10年早い特徴があり、30代、40代の、まだ経験が少なかったり、初めて管理職になる世代に重なるため、何らかの関連性があると推測できます。

やはり長時間労働が課題

これらの労災につながった出来事を多かった順に並べると、すべての職種で、長時間労働が上位に来ました。現場監督においては、事務作業などの多忙さも要因にあると考えられます。
また、仕事内容・量の大きな変化が引き金になったケースが多く、現場や配属が変わると、臨機応変な対応を求められる現場監督・技術者ならではの傾向であると読み取れます。

技能労働者では労災事故の被害がほぼ半数を占めました。長時間労働は少ないことが特徴的でした。また、現場監督よりも心理的なストレスから災害が発生している傾向があり、事故や災害の体験が引き金になった、二次障害としての精神障害に罹患しているケースも考えられます。

管理職、事務・営業職では長時間労働が最も多く、現場職に比べると、上司とのトラブルがきっかけになる割合が増えます。

◯8労災につながった出来事

人手不足の解消と、監督の事務作業の補助が必要

建設業では現場監督や職人といった現場で働く仕事に、より多くの負荷がかかっており、その原因は人手不足です。
特に、現場監督にかかる負荷は大きく、若い世代であっても、過労死につながる重篤な労災が発生しています。季節的な変動があるとはいえ、1人の作業時間を増やして対応するだけでなく、作業の外注や分業、書類の削減なども必要です。
まずは、長時間労働への問題意識を高めることが大切ではないでしょうか。

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