2020年3月期決算では、主要建設会社の連結売上高が、過去5年間で最高を記録しました。2020年東京オリンピック・パラリンピックの特需に加え、政府の公共建築投資も堅調に推移し、景気回復を背景に民間の設備投資も増加したことから、好調な決算期となりました。
一方、2021年3月期の業績予想では、ウイルス禍の影響が算定できないことから、発表を先延ばしにする企業が相次ぎました。中期的には堅調の予測が多いとはいえ、直近では「減収減益」の予想を立てており、「いかに業績にダメージを与えないようにコロナの時期を切り抜けていくか」に注力する姿勢になりそうです。諸外国の建設需要に関しては、いずれも厳しい見通しです。今回は2020年8月までに発表された各社の決算短信・業績予想をもとに分析しました。
目次
大手ゼネコン5社の決算
大手ゼネコンの決算は、大林組・鹿島建設が2兆円を超える売上高となりました。工事が順調に仕上がったため、連結ベースで4社が増収し、利益面でも首都圏の工事の完成などの要因により、高水準で推移しています。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
一方で、2021年3月期の業績は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で軒並み減収減益を予想です。
国内の受注に関しては、インバウンド向けのホテルなど、コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた業界を中心に受注が落ち込むとする予測もありますが、需要が増加した医療関係施設やインターネット、物流などの業界を中心に、物流施設やオフィスなどの受注を見込んでいます。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
準大手ゼネコン10社の決算
準大手ゼネコンでは、前期からの豊富な手持ち工事が進捗したことで7社が増収し、多くの会社で、直近5年間で見ても高い水準となる、非常に好調な決算となりました。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
一方で、2021年3月期に関しては、新型コロナウイルスの影響によるプロジェクトの見合わせを危ぶむ声もあり、慎重な予測を立てています。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
中堅ゼネコン11社の決算
中堅ゼネコン11社ははすべての会社で増収となり、大手と同じく非常に好調でした。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
こちらも2021年3月期については、新型コロナウイルスの影響を鑑みた予測となっています。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
電気工事サブコン10社の決算
電気設備工事大手の2020年3月期連結決算を見ると、関電工、きんでん及び九電工が過去最高の売上高となっています。きんでん及びトーエネックは経常利益がそれぞれ過去最高となり、九電工については、前年より減益するも高水準で推移しています。各社が2020年東京五輪・パラリンピック関連施設案件や再開発案件などの手持ち工事を順調に消化した結果と言えます。
関電工は、首都圏や関西圏で続く大型再開発や物流施設の建設ラッシュを背景に売り上げを伸ばし、きんでんと九電工は一般向けの工事が堅調でした。利益面では、人件費や資材費の高騰にうまく対処できたかどうかが明暗を分けたようです。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
業績予想は、関電工、九電工は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で減収減益を見込みました。中電工は、現時点での感染情報を参考にした上で、プラスの予想を立てています。電力関連の投資は、比較的抑制基調といわれていますが、都市開発やインターネット関連施設の需要の取り込みがカギになる模様です。
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通信工事サブコン3社の決算
情報通信工事の大手各3社は、いずれも前年と比べ、売上高が約2桁増となりました。小規模な通信設備会社を経営統合して事業規模を拡大しているためとしています。
ミライトホールディングスと協和エクシオは、それぞれ経営統合・買収した子会社の特損経常により、純利益が大幅にマイナスとなりました。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
各社とも経営は堅調に推移していますが、業績予想については、コロナウイルスの感染拡大の長期化による、サプライチェーンの寸断による工事の遅れや、投資マインドの減退に警戒感を示し、減収減益との予測を立てました。
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管工事サブコン7社の決算
空調設備工事を主力とする大手7社の決算は、7社ともに営業・経常利益が増益となり、好調でした。利益面では3社が増収、4社がほぼ横ばいに推移しました。
首都圏の再開発案件や公共案件が次々と完成し、採算性の良い工事を受注できていたことから、利益面でも高い水準を確保しました。高砂熱学工業と大気社は、連結ベースで過去最高の売上高となりました。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
業績予想では5社がコロナウイルスの影響を受け未定としました。高砂熱学工業は東京・大阪の再開発や、インターネット関連の投資、などに関連した施設の投資を見込んではいるものの、ウイルス禍による民間設備投資の減少トレンドに注意が必要であり、労務費の上昇も懸念材料であるとしました。
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エンジニアリング専業3社の決算
エンジニアリング専業3社のうち、日揮ホールディンズグは、順調な工事で粗利率が上がったものの、減収となりました。千代田化工は手持ち工事を着実に消化して増収したものの、東洋エンジは大型案件が進捗せず、減収減益となりました。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
新型コロナウイルスの影響で海外プラント関係の顧客の投資決定に遅れが出ており、業績予想を発表した2社は、いずれも前年度比でマイナスになるとしています。
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ユーザー系プラントエンジニアリング企業5社の決算
ユーザー系プラントエンジニアリング企業5社では、三菱ケミカルエンジニアリングを除く4社が増収増益となりました。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成
上場しているレイズネクストの短信によれば、次期はウイルス禍による石油業界の不況に影響を受ける可能性があるとし、設備投資の手控えによる需要減を警戒。プラントの改造・改修工事や、高機能製品の生産のための新規プラント建設工事などの受注確保に積極的に取り組む姿勢です。その他4社は業績予想を未定としました。
参考|各社の有価証券報告書、決算短信等に基づいて作成