建設業における定年制度の現状とシニアの活躍

今回のWAT REPORTでは、総務省統計局による労働力調査(2020年)、一般社団法人 全国建設業協会の「働き方改革の推進に向けた取組状況等に関するアンケート調査(2000年)」、労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査(2019年)」、国勢調査(2015年)をもとに、建設業界の定年制度の現状とシニアの活躍についてレポートします。

概要
高年齢者雇用安定法により、2025年4月から、すべての企業で65歳定年制が義務になります。
人手不足が深刻な建設業界では、ベテランのシニア世代に人手不足の解消や、即戦力の確保、若手の教育といった役割を果たしてもらえるのではないか、という期待を寄せており、すでに継続雇用制度や定年の廃止などを決めた企業もあります。

シニア層が活躍している建設業

建設業界は、シニア層が活躍しやすい業界であるといえます。

年齢と関係なく働ける資格が多く、特に、施工管理職では、現場経験が長いほどスキルが高くなる傾向があるため、50代以降のキャリアアップ転職も盛んに行われてきました。シニア層の再雇用や定年延長についても積極的で、待遇面も現役世代と遜色ないケースが多く見られます。

2020年11月の「労働力調査」をもとに、建設業界の年齢構成をグラフにすると、55~59歳と60~64歳の層がほぼ同数になっています。また、年齢層としては65歳以上の高齢者(84万人)が最も多いことも特徴で、若手をなるべく増やしながら、この年代になるべく長く働いてもらうことが重要になっています。

①-1 建設業界の年齢構成
参考|総務省統計局「労働力調査( 2020年11月 )

建設業界で65歳以上の従業員を雇用している企業の割合は

では、建設業界で65歳以上の従業員を雇用している企業は、どれくらいの割合でしょうか。

②-1 建設業界における65歳以上の雇用状況参考|一般社団法人 全国建設業協会 「働き方改革の推進に向けた取組状況等に関するアンケート調査

全国に約2万社の会員企業を持つ全国建設業協会が2020年に発表した調査では、会員企業のうち、9割近い86.5%が、自社に65歳以上の従業員がいると回答しています。前年の83.3%から3.2ポイント増加しました。

同調査では、高齢者雇用の取り組みの状況についても尋ねています。

②-2 高齢者雇用に向けての取り組みの状況参考|一般社団法人 全国建設業協会 「働き方改革の推進に向けた取組状況等に関するアンケート調査

会員の回答では、「継続雇用制度の導入」と答えた企業が最も多く68.6%、「定年制の引き上げ」が29.5%のほか、「定年制の廃止」も10.7%ありました。

2021年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、これまで義務とされてきた、

  • 従来の65歳までの雇用確保措置(いずれか、経過措置期間中)

・65歳までの定年引き上げ

・定年制の廃止

・65歳までの継続雇用制度を導入

 

に加えて、70歳までの雇用確保措置(努力義務)が加わります。
建設業界ではすでに定年制を廃止している企業も1割あり、継続雇用制度や定年引き上げをしているという回答も多かったことから、シニア世代の雇用継続には関心が高いことがわかります。ただ、特にないと答えた企業も1割強ありました。

問題になりやすい、高齢者の「労働安全衛生」

建設現場では、高所作業や過酷な屋外作業もあります。現場作業員に明確な年齢制限はないとはいえ、加齢に従って体力が落ち、安全衛生面にも配慮が必要になります。

②-3 高年齢労働者の安全衛生管理のための取り組み状況参考|一般社団法人 全国建設業協会 「働き方改革の推進に向けた取組状況等に関するアンケート調査

全国建設業協会の会員企業の調査で、高年齢労働者の安全衛生管理のための取り組みについて聞いたところ、「働く高齢者の特性を考慮した作業管理」が57.7%、「体力や健康状況に適合する業務の提供」が55.7%、「安全衛生管理体制の確立」が39.6%と続きます。

高齢者は、現場経験が長いでこともあり、危険予知能力はありますが、実際は、身体のバランス感覚が失われ、転倒や墜落による事故が増えてくるため、整理整頓や足場・手すりの設置などが欠かせません。

個々人の体力によってできることも違うため、ケースに合わせた安全衛生管理が大切になると考えられます。

建設業では、定年後の社員の51.0%が「定年前とまったく同じ仕事」をしている

労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査」では、企業に対し定年前後の仕事の変化について、アンケート調査を行いました。

⑤ 定年前と後の仕事の変化参考|独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT) 「JILPT 成果の概要 2019令和元年度

建設業では、定年後の社員の51.0%が「定年前とまったく同じ仕事」をしていると答えており、「定年前と同じ仕事であるが、責任の重さが軽くなる」というケースと合わせると、約9割にのぼります。

正社員としての継続雇用率が高い産業では、定年後の仕事内容が変わらないとする研究結果もあり、嘱託・契約社員の継続雇用率が高いいと、同一の仕事内容だが責任の重さが軽くなる傾向があるということです。

労働者のボリュームゾーンが2025年までに65歳を迎える

2015年に行われた国勢調査によると、「建設・採掘従事者」と「建設・土木作業従事者」の労働者人口構成は、いずれもM字型をしており、2つ目の山を形成している55~64歳の労働者が、2025年までに65歳を迎えます。

③ 職業別の年齢参考|総務省統計局「国勢調査 平成27年国勢調査 抽出詳細集計(就業者の産業(小分類)・職業(小分類)など)

グラフでは、年齢70歳以上になると、人数が大幅に減少します。M字のボリュームゾーンになっている年代が引退するまでの次の10年の間に、本格的に人手不足の解消や技術の継承などに着手していかなければ、さらに深刻な人手不足に陥る可能性があると考えられます。

まとめ

現在、シニア層はベテランとして建設現場を支える、貴重な存在となっています。技能実習生を含め、若手の入職も進められていますが、経験豊富なシニア層は、こうした人材に教育をする役割も期待されています。

夏場の熱中症や高所など、安全衛生管理には十分に注意をしながら、モチベーション高く働いてもらえるような待遇や仕組みづくりが大切になるでしょう。

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