今回のWAT REPORT では、国土交通省による「建築物リフォーム・リニューアル調査(2021年1~3月)」をもとに、リニューアル工事の市場動向をレポートします。
目次
概要など
2020年度の建築物リフォーム・リニューアル工事の受注額は、新型コロナウイルスの影響で、民間企業に設備投資を手控える動きがあり、前年比で減少しました。
工事も小口化する傾向があり、ほとんどの施設で、受注件数が増えたのにもかかわらず、受注高が減少するなど、積極的な設備投資を控える動きが見てとれます。
2020年度、民間リニューアル市場は前年比で1兆1,100億円(16.7%)縮小となる見通し
建設経済研究所の「建設投資の見通し」は、独自モデルとGDP速報をもとに、マクロ的な景気の動きと整合する形で、4半期ごとに建設経済の先行きを予測しています。
「建設投資の見通し」によれば、2020年度の民間リニューアル市場(住宅・非住宅含む)は、2019年の6兆6,600億円規模から1兆1,100億円(16.7%)縮小し、5兆5,500億円程度に着地すると見通しました。
参考|(一財)建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見通し( 2021 年4 月 )」
2021年度についての予測では、市場規模は微妙に上向き、400億円多い5兆5,900億円(0.7%増)になるとしていますが、民間設備投資全体が新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、弱含んだ動きとなっており、今後の市場に注目する必要があります。
参考|(一財)建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見通し( 2021 年4 月 )」
2020年度の非住宅建築リフォームの受注高は7兆4,457億円、前年比19.5%減
国土交通省の「リフォーム・リニューアル調査」は、建設業許可業者5,000者を抽出して4半期ごとに実施しています。
2020年度の元請け・下請けを合計した非住宅建築リフォームの受注高は、コロナ禍による民間の工事発注手控えが影響し、7兆4,457億円。「建設バブル」とまで言われた前年度を19.5%下回りました。内訳を見ると、多くを占める「改装・改修」、「維持・修繕」で件数や受注高が大幅に減少しています。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (令和2年度計)」
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (令和2年度計)」
リニューアル工事の小口化で受注高が減少。学校・老人福祉施設は増加
2019年度には民間のリニューアル投資額が拡大したため、20年度は、その反動減とコロナ禍の影響により、ほとんどの用途の建物において、リニューアル工事の受注高が落ち込みました。
受注高を用途別の内訳で見ると、事務所が1兆6,230億円(前年度比18.2%減)、その他の非住宅建築物が1兆5,478億円(同21.8%減)、生産設備(工場、作業場)が1兆4,052億円(同25.9%減)など。軒並み受注が減りました。
ただ、リニューアル工事の件数を見ると、むしろ増加しており、受注高の減少は「1件あたりの単価が低くなったため」であることがわかります。コロナ禍で積極的な投資を控える企業が多く、リニューアル工事が小口化していることが、受注高減少の主な要因と考えられます。
一方、学校の校舎は7,411億円(10.1%増)、老人福祉施設は1,952億円(16.8%増)受注高が増加しました。老人福祉施設は件数が減り、受注高が増えたことから、1件あたりの単価が比較的高い案件が多かったと見られます。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (令和2年度計)」
過去5年間の受注高の推移を、施設の用途に分けて個別に見ていきます。
事務所リニューアル工事の受注高は年々減少しており、2019年に1兆9,851億円(前年同月比16.6%増)と回復したものの、コロナ禍の20年に再び減少に転じ、過去5年間で最も低い、1兆6,230億円となりました。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (2016-2020)」
飲食・小売業の景況感が悪化したため、新規出店や改装リニューアルなどが減少しました。物販店舗リニューアル工事の受注高は、過去4年で最も低い水準となっています。今後さらに営業制限が続けば、店舗の疲弊感が強まってくると考えられ、先行きが懸念されます。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (2016-2020)」
製造業も景況感が悪化し、投資の手控えが広がっています。生産設備(工場・作業所)のリニューアル工事は、18年に下がった受注量が19年に一旦回復したところ、今年になって1兆4,052億円(同25.9%減)と、再び落ち込みました。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (2016-2020)」
倉庫・流通施設リニューアル工事の受注高は、前年比30.2%減となりました。調査が始まった16年以降、2番目の低水準でした。ただし、ECサイト利用者が増加し、荷物量が増大したことから、効率化や設備の拡大のための新規需要も見込まれます。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (2016-2020)」
民間企業等からの発注は22.9%減、公共工事の発注はほぼ前年並み
2020年度の発注者の内訳を見ると、民間企業からの発注が5兆5.614万円(22.9%減)、公共工事が1兆5,693万円(3.4%減)でした。民間の発注が景況感に左右されるのに対し、公共工事では一定の工事量が確保されるため、前年比であまり変動がなかったと考えられます。
参考|国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査 (令和2年度計)」
まとめ
今回の調査結果を見ると、新型コロナの影響で、多くの企業が設備投資においてコスト面の引き締めを行なっていることがわかります。ただ、ECの普及による物流施設の強化や、テレワーク時代に合わせたオフィスの改装など、新たな需要も生まれつつあり、企業にとっては、新需要の取り込みが課題となりそうです。