今回のWAT REPORTでは、国土交通省、一般財団法人全国建設研修センター、同建設業振興基金の発表資料をもとに、施工管理技術検定の受験者と合格者、合格率などをまとめています。
目次
概要
施工管理技術者は、設計図をもとに施工計画を立て、建造物を完成にまで導く重要な役割を担っています。高度な技術を持つエンジニアであり、現場のキーマンだと言えます。
最近では人手不足となっており、2021年度からは、「技士補」を新設して、現場の配置要件を緩和するなど、技術検定のみならず資格者をめぐる制度も大きく変わりつつあります。
令和2年度(2020年度) 施工管理技術検定をめぐる動き |
新型コロナウイルスの影響により、技術検定が延期・中止
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、2020年の技術検定では、試験日程の一部中止・日程延期がありました。 |
技術検定制度が見直され、「技士補」が誕生
2021年4月1日に改正建設業が施行され、技術検定制度が見直されます。 新試験では、1次試験では基礎的な知識や能力、2次試験では、より実務経験に基づいた専門性や応用能力を問われます。 |
新資格「技士補」とは
元請けの監理技術者を補佐する資格が「技士補」です。 |
相次ぐ不正事案に国交省が本腰
実際は資格要件を満たしていないのに、不正な書類を提出し、資格を取得してしまうケースが後を絶たちません。 ・証明者となる企業に対し、受検者経歴を裏付ける根拠となる資料をそろえ、保管するように求める などと取り決めています。 |
出典:国土交通省「技術検定制度の見直しについて」
建築施工管理技士の受験者と合格者、合格率の推移
建築施工管理技士は、建築工事の施工管理のプロであり、建築工事にまつわるさまざまな専門工事業についても厚い知識を持つエンジニアです。
1級ではすべての建築工事で施工管理ができ、2級では、「建築工事」「躯体工事」「仕上げ工事」の3種類のどれかに特化して、施工管理を行えます。
2003年度から、17歳の受験が可能になり、2017年からは受験機会を増やすため、試験を2回実施しています。(2020年には、新型コロナウイルスの影響で、前期の2級学科試験が中止となり、1級の実地試験の結果は、現時点で未発表です)。
参考|国土交通省 令和2年度2級建築・電気工事施工管理技術検定「実地試験」の合格者の発表/報道発表資料 より作成
ほとんどの技術検定は、近年の合格率が30-40%であり、今回の2級建築は、合格率が低めだったと言えます。
2級建築施工管理技士は、実績面のハードルの低さもあり、合格者のうち67.6%が21才未満の若者でした。29才までの人数を足すと、合格者の9割近くが若者です。
また、合格者4,363名のうち、女性の合格者が11.1%を占めています。各資格で最も割合が高く、女性にも人気があることがわかります。
土木施工管理技士の受験者と合格者、合格率の推移
土木施工管理技士は、昨今の災害対策や治山・治水、インフラ整備の現場などで欠かせない資格者です。他の技士資格と比べても受験者数が多く、土木の世界では、最もスタンダートな資格と言えるのではないでしょうか。
土木施工管理技士には、土木工事全般で施工管理ができる1級と、比較的小規模な現場で活躍する2級の資格があり、2級は「土木」「鋼構造物塗装」「薬液注入」に分かれています。女性の受験者は年々増加しており、
1級は女性比率が過去最高の8.9%を記録しました。2級も3年連続で10%を超えました。
参考|国土交通省 令和2年度1級土木施工管理技術検定「実地試験」の合格者の発表/報道発表資料 を基に作成
参考|国土交通省 令和2年度2級土木施工管理技術検定の合格者を発表/報道発表資料 を基に作成
1級の合格者は2万4,204人、合格率は31.0%で、昨年から大きく低下しました。合格者数は過去10年で2番目の低水準でした。
合格者の年齢構成を見ると、ざっくり分けて20代、30代、40代が、それぞれ3割ずつで、1級建築(前回)に比べると年齢層は高めでした。
勤務先は、建設業が8割、官公庁が1割で、建設コンサルタントからも3.5%程度合格しています。
2級の合格率は5年連続で上昇し、43.9%となりました。それに伴い、合格者数も過去10年で最高の1万3,014人となりました。
内訳は、土木1万2,852人、鋼構造物塗装116人、薬液注入46人です。
2級土木の合格率は、2級建築よりも15%ほど高い43.9%でした。合格者を年齢で分けると、20代までが約4割、30代が約3割でした。
2級土木は、11.7%が中卒(もしくは高校在学中)で取得されています。
また、合格者の年齢は、建築と比べて高めでした。
電気工事施工管理技士の受験者と合格者、合格率の推移
電気工事施工管理技士は、電気工事の施工管理者として、現場で活躍する仕事です。
1級資格であれば、総額4,000万円以上の大規模施設の現場で施工管理業務ができます。2級は、中小規模のビルや公共・商業施設の電気工事に限定されます。
また、第1種電気工事士の資格保持者は1級から受験できるため、2級の受験者は多くありません。
建築工事施工管理技士と同じ試験機関が検定を実施しているため、建築と同じく、2003年度から、17歳の受験が可能になりました。
2018年からは試験を2回実施しています。(2020年には、新型コロナウイルスの影響で、前期の2級学科試験が中止、1級の実地試験の結果は、現時点で未発表です)
参考|国土交通省 令和2年度2級建築・電気工事施工管理技術検定「実地試験」の合格者の発表/報道発表資料 より作成
建築・土木の合格率が30~40%前後であることを考えると、電気工事の近年の合格率は60%前後で、他資格よりも高いことがわかります。特に、2018年の1級は70.0%を超え、難易度が低めだったことがわかります。
2020年には、2級の合格率が45.0%と低下しました。
合格者に占める女性の割合は3.3%で、他の施工管理技士資格と比べると高くない傾向があります。
合格者の所属としては、建設業と専門学校生が4分の1ずつで、高校生が約半分でした。
管工事施工管理技士の受験者と合格者、合格率の推移
1級管工事施工管理技士は、大規模な建設工事において、すべての空調・衛生設備・ガス配管などの管やダクトの設置工事の管理業務を手がけることができます。
2級の資格保持者であれば、中小規模の建築物で、同内容の工事の管理業務が可能です。
参考|国土交通省 令和2年度 管工事・電気通信工事・造園施工管理技術検定(1級・2級) 合格者の発表 より作成
1級管工事の合格者数は5,018人で、合格率は61.1%、比較的高めです。合格者の大半を30~40代が占めており、20代は2割弱でした。
合格者数は、1・2級とも前年からあまり変わりませんでした。
女性の割合は5.5%と電気工事より高いものの、決して多くはありません。
全合格者の勤務先の内訳は9割が建設業で、公務員・独法・建設コンサルタントからの合格者は、少数でした。
電気通信工事施工管理技士の受験者と合格者、合格率の推移
2019年からスタートした電気通信工事施工管理技士試験は、2年目を迎えました。インターネットが普及し、情報通信設備のニーズが増えたことを背景に、新設された資格です。
携帯電話の基地局工事や、建物施設内の通信環境整備、放送設備など
参考|国土交通省 令和2年度 管工事・電気通信工事・造園施工管理技術検定(1級・2級) 合格者の発表 より作成
2020年の1級の試験では、実地の受験者数は6,707人(前回は5,781人)、合格者は3,307人(同2,860人)でした。
合格者に占める女性の割合はきわめて少なく、全体の0.8%でした。合格者の半数が40代で、30代・50代が4分の1ずつを占め、29歳以下はわずか2.3%と、かなり年齢層は高めでした。
2級は実地の受験者数4,101人(前回3,514人)で、合格者は1,391人(同2,007人)と、減少しました。また、合格率が33.9%だったことから、やや難易度が高かったことがわかります。
合格者の中で、女性が占める割合は2.8%でした。
年齢別では、20代の合格者は1割未満で、30~40代の受験者が多く、50代以上も20%程度を占めました。
まとめ
現場のリーダーである施工管理技士ですが、最近では人手不足が深刻化しており、ボリューム層である高齢世代の大量退職など、懸念される要因は多くあります。
2021年度からは「技士補」が創設され、受験資格や配置要件の緩和も行われますが、高い技術力や問題解決力・対応力が求められるだけに、安易な増員もできないのが実情です。