今回のWAT REPORTでは、厚生労働省による「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」をもとに、2020年の建設業及び各業種の雇用への影響を取り上げます。
新型コロナウイルス(以下新型コロナ)の感染拡大に歯止めがかからず、企業の雇用施策へも多大な影響が出ています。
2020年に解雇見込みの労働者は、全業種で約8万人となり、建設業においては8,000所に迫る数の事業所が、雇用調整の可能性があるとして公的機関に相談や申告をしました。一方で、相談や申告をした事業所の増加ペースは10月を境に緩やかになり、年末の1週間では、製造業が234事業所だったのに比べ、建設業は75事業所でした。
休業要請が出されたことによる工事の中断や、他産業の悪化に伴う発注の白紙化、資材調達の不順などの影響は依然としてありますが、雇用に関しては持ち直しの兆しが見えています。
目次
コロナ解雇は約8万人、うち4万人強は正社員
厚生労働省の発表では、2020年5月から集計を開始した調査の12月25日までの累積値で、新型コロナに関連した雇用調整の可能性がある事業所が12万0371事業所、解雇等が見込まれる労働者数が7万9522人、そのうち非正規雇用労働者数は3万8008人となりました。(※非正規雇用はパート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託など、5/25以降に集計を開始)
参考|厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」
非正規雇用にはパート・アルバイトを含むため、非正規雇用に占める派遣社員の人数は、さらに少なくなります。この調査に限れば、正規雇用の社員と派遣社員とで比較すると、正規雇用の解雇が多いことがわかります。
月次の動向では、雇用調整の可能性がある事業所は、1度目の緊急事態宣言後に膨れ上がり、7月にはピークを迎えて2.5万件に達しました。その後、増加ペースは鈍化し、12月には3,315件となりました。
解雇見込み労働者数は、最も多かったのが5月の1万2949人で、その後は月ごとにほぼ1万人のペースで増加しました。10月以降は増加が減少しています。
参考|厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」
建設業で雇用調整の可能性があるのは累積で約8,000事業所
業種別に見ると、新型コロナに関連した雇用調整の可能性がある12万0,371事業所のうち、コロナ禍で深刻な打撃を受けた製造業が2万2,326事業所と最多でした。
次いで飲食業が1万4,037事業所、小売業が1万1,972事業所、サービス業が1万0,803事業所、建設業が7,775事業所でした。
参考|厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」
建設業における雇用調整の可能性がある事業所の推移では、新型コロナの緊急事態宣言が出された2020年4月以降から事業所数が急増し、5月に1,277事業所、6月には2,438事業所、7月には4,351事業所となりました。8月には5,000事業所を越え、10月に7,000事業所、12月には8,000事業所に迫っています。
他業種を含めた全体の傾向としては、7月をピークに増加幅は減りましたが、建設業については10月までピーク時とほぼ同じペースで増加し、その後鈍化し、持ち直しの兆しが見えています。
※業種は、都道府県労働局が企業から聞き取った情報であり、日本標準産業分類に準じて整理しているものではありません。
参考|厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」
一方、12月25日までの1週間でみる雇用調整の可能性がある事業所では、製造業(234事業所)、サービス業(同138)、卸売業(同136)、情報通信業(同134)、飲食業(同118)、小売業(同96)、専門サービス業(同78)につづいて建設業(同75)となっており、運輸業(同69)、医療・福祉(同39)でした。
新型コロナの感染拡大による社会の変化と関わりが強く、影響の大きかった業種が上位にくる傾向がありました。
建設業の解雇等見込み労働者数は、全業種で10位以下
業種別に見た解雇等見込み労働者数では、製造業が最も多い1万7,589人で、飲食業が1万1,437人、小売業が1万0667人、宿泊業が1万0258人でした。
建設業は上位10業種に入らず、数字の公開はありませんでした。
参考|厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」
政府はさまざまな支援策を打ち出している
政府は、緊急事態宣言の再度の発令などを踏まえ、新型コロナの影響を受けた事業主に対して、助成金による支援策を講じました。
「雇用調整助成金」、「緊急雇用安定助成金」「新型コロナウイルス感染症対応休業援助金・給付金」などによるさまざまな支援のほか、新型コロナの影響で事業を縮小したが、雇用を守るために従業員を出向させる事業者のため「産業雇用安定助成金(仮称)」も新たに創設する予定です。これについては、すでに21年度予算案で537億円を計上しました。
そのほか、事業継続資金に苦慮している中小の事業者向けに、政府系金融機関に協力を要請し、実質無利子・無担保融資を柔軟に運用することも取り決めました。
ただし、融資はあくまで返済が前提となっているので、返済が始まった時点で、返済可能な収入を取り戻せそうかが一つの判断基準となりそうです。
今回のコロナ禍においては、需要の変化により増収した業界もあれば、減収した業界もあり、業種によって影響の受け方が全く違うことがあげられます。
建設業においては政府の直轄工事の需要も多く、一概には言えないながらも人材需要にはある程度安定感があるため、他産業からの人材流入を期待する声もあるようです。