建設業における多能工化について

多能工化200924

今回のWAT REPORTでは、国土交通省・一般財団法人建設業振興基金による、建設技能労働者の多能工化・働き方改革に関するアンケート調査をもとに、建設業界における多能工の現状をまとめました。調査対象はゼネコン2団体(全国建設業協会、全国中小建設業協会)及び建設産業専門団体連合会傘下の34団体の所属企業で、全体の有効回答数は1,895件です。※このレポートは2019年の調査をもとに作成しています。

▮日本における多能工と建設業

世界で最初に多能工化に取り組んだのはトヨタ自動車工業株式会社でした。工員が1人で複数のラインを受け持つことで、作業の負担に偏りが起きなくなり、残業や人件費の削減にもつながった効果が報告されています。

建設業においては、長らく単能工が活躍してきました。戦後から高度成長期にかけては大型工事が多く、1日中同じ領域で作業をする単能工の需要が多かったためと考えられます。大型開発が一巡し、小型工事やリニューアル工事が増加すると、単能工に求められる1現場あたりの作業量が減少したため、単能工であることの弊害(作業が少ない時に余剰時間が出やすい、日をまたぐ工程が作りにくい、打ち合わせの手間がある、など)が顕在化し、より生産効率の高い多能工を増やす方針が打ち出されました。

近年では企業や訓練施設などで多能工育成が始まり、技術者の多能工化が進められています。一方で、分離発注の見直しの必要性や、労務上の負担の偏りも指摘されており、課題となっています。

多能工の種類について

国土交通省と建設業振興基金の調査によると、専属外注や一人親方を含め、自社で多能工が働いているかどうかについてのアンケートでは、回答した1,018社のうち半数以上となる551社が「個人・グループまたはその両方が働いている」と回答しました。

多能工がいるか(会社の地域別)

地域別にみると、三大都市圏では会社やグループで働く多能工と個人の多能工の割合が同じくらいであることがわかり、相対的にグループで働く多能工が多いことがわかります。

地方では個人の多能工の割合が、企業やグループで働く多能工の4倍近くに上り、三大都市圏に比べても個人の多能工が多いことがわかります。

多能工がいるか(会社の業種別)

業種別では、土木関係の会社で個人の多能工との取引が多く、グループで働く多能工の3.7倍でした。建築関係では、個人の多能工がグループの約2倍であり、土木に比べてグループで活動する多能工が多いことが伺えます。

「多能工がいない」と回答した会社は、建築の会社が全体の半数近く、土木で4割近い238社でした。

多能工の職種組み合わせについて

国土交通省と建設業振興基金の調査によれば、現状の多能工の工種組み合わせについては、かなりばらつきがあることがわかります。

ある程度回答にまとまりのあった土木系では、構造物の型枠工・鳶土工の組み合わせが多く、鉄筋工とも組み合わせやすいことがわかりました。

また、仕上げ分野では、塗装工・防水工の組み合わせが多く、いずれも取り組みやすい状況があると考えられます。

多能工の職種組み合わせ(建築・土木別)

多能工の働き方と技能のバリエーション

さまざまな分野で可能性のある多能工ですが、現在時点で大きく分けて次のように分類できます(蟹澤,2019)。

複数の専門技能がある多能工

1人で複数の専門技能をもっているタイプ。リニューアル工事、設備工事、電気工事などの専門工事のまとまりの中で、何回かに分けて教育訓練を受けるケースが多い。

グループで多能工的に活動している職人

複数の専門職が協働し、多能工グループとして活動しているケース。それぞれの専門職種が他を補助することで待ち時間を減らし、全体で生産性を上げることを目的とする。

水平展開型の多能工

ひとつの技術に熟練した上で、関連業務に水平展開していくタイプ。住宅建築で多く見られ、ボード、フローリング貼りサッシの取り付け、水回り設備の取り付けなど、「受注した仕事」に必要とされる技能を習得していくケースが多い。

工程横断型の多能工

型枠と造作工事、設備と仕上げ工事など、工程の区分を超えて、連続的に工事を請け負うことのできる多能工。2つの工事の取合いが多い部分を受持ったり、新技術を核にし、それに関わる周辺工事全般を受け持つなどのケースもある。

偶発的作業に対する能力のある多能工

計画上はなくても、しばしば起こる偶発的な作業に対応できるスキルのある多能工。

垂直展開型の多能工

設計から施工、管理といった工程を、能力の高い個人が自前で担ったり、ひとつのグループがまとめて請け負い完結させるようなケース。

(参考文献:蟹澤2020年3月,生産性の向上と多能工,建設業における多能工推進ハンドブック,国土交通省・建設業振興基金編,p4-5)

多能工が必要となった背景・動機は

多能工が必要となった背景・動機

国土交通省と建設業振興基金の調査によると、多能工が必要となった背景・動機として「手持ち時間や移動時間の削減による効率化・工期短縮」が最も多い74.6%で、「工程・手順の合理化による品質向上」が56.3%と、いずれも技能者レベルでの生産性の向上や合理化が動機となっています。続いて、「地域の状況により複数の職種・技能を担当せざるを得ない」が30.5%、「工事料が減少する職種を補うため、他職種工事を受注する必要性があった」が24.0%となり、地域や受注工事の都合により、多能工化に取り組んだ流れがあることも読み取れます。

「建設技術者自身の希望」「発注者・元請けからの要請」は、いずれも1ケタ%第にとどまり、「建築部材の工場生産など新工法・工業化工法への適応」は0.7%とごくわずかでした。

多能工を育成する期間は

多能工を育成する期間

多能工の育成期間のデータでは、14.7%の企業が育成に5年以上かけているとしています。さらに、1~2年程度が25.0%、2~3年程度が23.8%、3~4年が12.0%と、全体の4分の3が、年単位の時間をかけていることがわかりました。

同調査において、企業を特性(規模・業種・受注先)別に分類したところ、すべての階層において同程度のばらつきが見られたことから、企業規模や業種、受注先との関連性よりは、各企業の方針や、技能者の熟練度などで育成期間が左右されると見られます。

多能工化に取り組まない理由は

多能工化に取り組まない理由としては、半数以上が「希望する建設技能者がいないから」を挙げました。「教育訓練費用の負担が大きいから」が28.9%、「教育訓練機関が長すぎるから」も24.0%と、多能工化に係る負担を理由に取り組んでいない現状が伺えます。また、「育成の方法がよくわからない」「メリットがない」といった理由も多く、社内体制や業態により差があることも読み取れます。

多能工化に取り組まない理由

最後に

多能工の育成は建設企業にとって大きな負担にはなりますが、さまざまなメリットを享受できる可能性があります。特に「人手不足解消」「収益率向上」「品質の平準化」「工期短縮」などの課題解決に繋げることができるのではないでしょうか。

育成にあたっては、社内研修、社内OJT、教育訓練センター(※)などの教育施設の利用、社外交流で連続する工程の専門工事企業との相互技術教育指導の実施などの手段があり、それらを組み合わせて人材を育てる環境を整えていく必要があります。

また、習得した技術に対しては適正な評価や待遇の向上などの報酬を用意し、技能者のモチベーションコントロールを行いながら、多能工化を推進していくことが望まれます。

富士教育訓練センター http://www.fuji-kkc.ac.jp/default.asp
静岡県富士宮市にある建設技術者・技能者のための教育訓練施設であり、複数の多能工育成コースが用意されている。

関連記事

  1. 国交省概算要求

    国土交通省2021年度概算要求

  2. 施工管理検定合格者の推移

    施工管理技術検定の合格者数の推移