国土交通省2021年度概算要求

国交省概算要求

今回のワット・レポートでは、2020年9月25日に国土交通省が財務省に提出した、2021年予算の概算要求(「令和3年度予算概算要求概要」)についてまとめました。

【今年の動き】

今年の概算要求は、各省庁の新型コロナウイルス感染症の対応を優先したため、要求の提出日が例年より1ヶ月遅い9月末となりました。これは、東日本大震災後の12年度予算でも前例があります。

さらに、新型コロナや災害対策などの緊要な経費は別枠で要望する措置を取ったため、年末の予算編成にかけて大幅な上積みとなる可能性もあります。

今年は5.9兆円を要求、災害対策とコロナが柱

国土交通省の年度概算要求の推移(一般会計)2021

参考|国土交通省「令和3年度国土交通省予算概算要求概要」に基づき作成

国土交通省は、来年度予算の概算要求として、前年度並みの5兆9617億円(前年要求比1%増)を要求しました。(財務省の措置による)。

防災・減災や国土強靭化計画に関連した予算は、「これまでの実績を上回る必要かつ十分な規模」を求めるとし、具体的な要求額は示しませんでした。コロナ関連の費用と併せ、年末の予算編成にかけて、上積み額を検討します。

公共事業費はほぼ横ばいの5.2兆円、水害対策に力

国土交通省の年度概算要求の推移(公共事業費関係)2021

参考|国土交通省「令和3年度国土交通省予算概算要求概要」に基づき作成

公共事業関係費も横ばいの5兆2579億円となりました。昨年に引き続き自然災害やインフラ老朽化に力を入れ、堤防やダムの整備だけではなく、全国の1級水系で、水害リスクの高い地域の宅地化を規制したり、住宅の移転を促進するなどの「流域治水」の費用を要求します。

今年の概算要求の 3本の柱

自然対策災害、インフラ老朽化

急激に進む気候変動の影響で台風の大型化やゲリラ豪雨といった、激しく、かつ大規模な自然災害が多発しているため、今回の概算要求では、昨年に引き続き、「国民の生命を守る」ことを最優先に、災害の対策に総力を挙げて取り組むとしています。

直近では2020年7月の九州の豪雨災害が記憶に新しく、首都直下型地震や南海トラフ地震が近い将来起きることも想定されています。防災・減災のためのインフラ整備や、国民に対する防災教育、老朽化した施設や設備の更新などを推進します。(+αは増額を求める方針)

主な要求内容 要求額
あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」への転換 5,027億円(4%増)+α
水災害リスクの増大に備え、堤防整備、ダム建設・再生などの対策を加速、国や都道府県・市町村、企業・住民などあらゆる流域の関係者で水災害対策を推進する
集中豪雨や火山噴火などに対応した総合的な土砂災害対策の推進 1,155億円(1%増)+α
集中豪雨や火山噴火による土砂災害に対して、防災関連施設を整備し、インフラや地域の拠点を守るための総合的な対策を推進する
南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策等の推進 1,646億円(12%増)+α
切迫する大地震の被害防止・軽減のための施設を整備・耐震化。ヘリや道路、海上からの救助・救急ルートの確保や災害情報の精度向上の研究
災害対応能力の強化に向けた防災情報等の高度化の推進 40億円(329%)+α
自然災害と感染症の複合災害にも備えつつ、ハザードマップの改良をはじめ、防災情報の的確な把握・提供を図り、行政や住民の災害対応能力を強化する。
災害時における人流・物流の確保 2,992億円(3%増)+α
災害発生時であっても輸送ルートが確保されるような体制の構築。地震・豪雨・豪雪などの災害と、感染症の同時発生も想定した防災対策を推進する。
将来を見据えたインフラ老朽化対策の推進 7,176億円(3%増)+α
「インフラ長寿命化計画(行動計画)」に基づき、自然災害に対応するインフラの老朽化対策を推進、持続可能なインフラ管理・メンテナンスサイクルを実現する
地域における総合的な防災・減災対策等に対する集中的支援(防災・安全交付金) 7,847億円(1%増)+α
頻発している風水害・土砂災害や大規模地震・津波に対する防災・減災対策など、地方公共団体などの取り組みを集中的に支援する。
参考|国土交通省「令和3年度国土交通省予算概算要求概要」に基づき作成

持続的な経済成長の実現

公共事業発注による景気刺激策にとどまらず、長期的にみて価値のある投資に取り組みます。既存施設の有効活用や、計画的な維持管理、更新のほか、民間資金やノウハウの活用にも取り組みます。

また、新しい生活様式に変化した「ウィズ・コロナ」の時代に、持続的に経済成長を続けるための新たな技術や生産性向上を支援。新しい社会にふさわしい国内産業の基盤づくりに力を入れるほか、人材確保と育成も注力します。

主な要求内容 要求額
効率的な物流ネットワークの強化 3,999億円(3%増)+α
大都市圏の環状道路などの整備や、ピンポイントの渋滞対策を推進。渋滞を緩和し、迅速・円滑で競争力の高い物流ネットワークを実現する
整備新幹線の着実な整備 804億円(±0)+α
日本の基幹的な高速輸送体系を形成するとして、着実に整備する。北陸新幹線(金沢・敦賀間)と九州新幹線(武雄温泉・長崎間)の開業に追加的に必要な経費の一部は、追加で要求する。
成長の基盤となる社会資本整備の総合的支援 7,277億円+α
将来の成長基盤となる民間投資・需要を喚起する道路整備やPPP/PFIを活用した下水道事業、地域経済を刺さる基幹産業の国内回帰、サプライチェーンの強化に資する港湾の機能向上など、地方の取り組みを支援する
インフラ・物流分野などのデジタルトランスフォーメーションの推進 183億円(330%増)+α
「新たな日常」の行動規範に基づき、公共工事の現場で、非接触、自動化・遠隔化技術の導入などを率先しながら、これからの時代に合わせたデータやデジタル技術、ロボット、AI、ドローンの活用を図る。
オープンデータ・イノベーション等による i-Construction の推進 15 億円(34%増)+α
官民が保有する3次元データや新技術の活用拡大、現場導入、地方公共団体への普及などにより、生産性向上などを目的としたi-Cnstructionを推進する。

個別の活用事例の共有やオープンイノベーション、技術開発や研究を促進する。

建設業、運輸業、海運・造船業、宿泊・観光業における人材確保・育成 68億円(79%増)
現場を支える技能人材の確保・育成や生産性向上のため、適切な賃金設定などの処遇改善や教育訓練の充実、外国人の活躍促進といった働き方改革を官民一体で推進する。
PPP/PFIの推進 433億円(16%増)
民間の資金・ノウハウを活用した多様なPPP/PFIを通じて、低廉で良質な公共サービスを提供する。民間の事業機会を創出するため、案件形成を支援するなどで経済成長の加速化を図る。
インフラシステム輸出の戦略的拡大 36億円(31%増)
「新たな日常」を見据えながら、世界のインフラ需要を取り込んでいく。トップセールスや、日本の強みを生かした案件の発掘、企業支援や技術企画の国際標準化など
参考|国土交通省「令和3年度国土交通省予算概算要求概要」に基づき作成

多核連携型の国づくり、暮らしやすい地域とまちづくり

地方においては、人口の減少により、地方では必要なインフラが行き届かなくなる地域が出てきている現在、郊外に分散している居住地の広がりを抑え、生活圏を小さくまとめる「コンパクトシティ」の構想も徐々に進捗しつつあります。

さらに、このコロナ禍を機に、東京や近郊に住んでいた労働者が、二拠点に住んだり、駅から遠い郊外に引っ越す、地方にUターンするなどの選択肢を積極的に選ぶようになると予想されており、東京一極集中型から、複数の都市が中核としての役割を担う「多核連携型」の社会の実現に向けて、スマートシティや次世代モビリティ、グリーンインフラなどを導入、コンパクト・プラス・ネットワークの推進で、地方の活性化を目指します。

主な要求内容 要求額
地域公共交通や観光地・宿泊施設等のバリアフリー化の推進 382億円の内数+α
鉄道駅における移動などの円滑化や、地域公共交通、観光地・宿泊地などのバリアフリー化を促進する
空き家対策や地域の魅力を生かすための適正な土地利用等の促進 128億円(15%増)+α
空き家・空き地、所有者不明土地などの適正で効果的な活用により、地域の生活環境の維持・向上を図り、魅力・活力ある地域の形成を支援する。
コンパクトで歩いて暮らせるゆとりと賑わいあるまちづくりの推進 752億円(1%増)+α
地域の生活機能の誘導・集約や事前防災の推進、オープンスペースを活用したコンパクトで歩いて暮らせるゆとりと賑わいあるまちづくりを行う
次世代モビリティ等の普及促進 21億円(262%増)+α
「新しい生活様式」がもたらしたヒト・モノの移動をめぐる構造の変化に対応する。AI・IoTなどの新技術を活用した、混雑回避システムや自動運転の実用化に向けたソフト・ハード面での基盤づくり、データの活用などを推進する。
地域・拠点の連携を促す道路ネットワークの整備等 2,646億円(3%増)+α
多核連携型の国づくりへの転換を図るため、地域や拠点を繋ぐ道路ネットワークの整備や、二拠点居住、ワーケーションにも対応した新たな交通ネットワークの整備を進める。
豊かな暮らしを支える社会資本整備の総合的支援(社会資本整備総合交付金 7,277億円(±0)+α
コンパクト・プラス・ネットワークの推進や、誰もが暮らしやすく豊かな生活を実感できる地域づくり、コロナ禍により価値が再認識された、公園等のオープンスペースを活用した、歩いて暮らせるまちづくりなどの地方公共団体等の取り組みを支援する。

参考|国土交通省「令和3年度国土交通省予算概算要求概要」に基づき作成

まとめ

今年の予算編成では、年末にかけての防災・減災に向けた予算の確保が焦点となりそうです。これについては、2018年から「3か年の緊急対策」として2兆円あまりの予算が割かれてきた実績があり、少なくとも同じ規模か、それ以上の予算を要求して、インフラ整備に取り組むと見られます。

また、「建設業、運輸業、海運・造船業、宿泊・観光業における人材確保・育成」には79%増の68億円が要求されており、人口減少社会で必要な人材を確保していくために、ソフト・ハード面での根本的な問題解決や、環境の整備を推進していくと考えられます。

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